【熟年離婚の準備】専業主婦がお金の不安なく自立する3つの手順

熟年離婚の準備 専業主婦がお金の不安をなくす3つの手順 熟年離婚

「このまま夫と一緒に年を重ねていくのだろうか」。ふとした瞬間に、そう考えてしまう。長年連れ添ってきたけれど、子どもも独立し、これからの人生を思うと、離婚という二文字が頭をよぎる。でも、いざ考え始めると、次に押し寄せてくるのは決まってお金の不安ではないでしょうか。

「専業主婦だった私が、一人で暮らしていけるのだろうか」「年金は、財産は、家はどうなるのか」。わからないことが多すぎて、何から手をつければいいのか見当もつかない。そんな声を、たくさん聞いてきました。

この記事は、そんなあなたのための「地図」です。私は62歳。定年を目前に、契約社員として働きながら、同世代に向けてお金や暮らしの情報を発信しています。離婚の専門家ではありませんが、同じ時代を生きてきた一人として、お金の現実を正直にお伝えしたい。この記事を入り口に、これから熟年離婚とお金にまつわるテーマを一つずつ掘り下げていきます。まずは全体像と、最初にやるべき3つの手順から始めましょう。

熟年離婚は、もう珍しいことではありません

まず知っておいてほしいのは、あなただけが特別な悩みを抱えているわけではない、ということです。

厚生労働省の統計をもとにした各種の分析によれば、離婚した夫婦のうち同居期間20年以上の、いわゆる熟年離婚が占める割合は、全体の約2割にのぼります。1980年代には1割にも満たなかったことを考えると、長い年月をともにした夫婦が別れを選ぶケースは、確実に増えてきました。50代以降の離婚率も、2000年以降は上昇傾向が続いています。

数字を見て、少しほっとした方もいるかもしれません。「私だけじゃないんや」と。長い結婚生活の中で気持ちがすれ違い、これからの人生を自分らしく生きたいと願うのは、決して身勝手なことではありません。

ただし、気持ちの整理と、お金の準備は別の話です。ここからが本題。離婚後の生活で困らないために、いま何をしておくべきかを見ていきましょう。

お金の不安をなくす3つの手順

熟年離婚の準備は、やることが多くて途方に暮れがちです。でも、順番さえわかれば、一つずつ着実に進められます。最初に取り組むべきは、次の3つです。

手順① 離婚後の生活費を「見える化」する

いちばん最初にやってほしいのは、離婚後に毎月いくらかかるのかを、具体的な数字にすることです。頭の中で漠然と不安がっているうちは、その不安は大きくなる一方です。紙に書き出してみると、意外と「これならやっていけるかも」と思える部分と、「ここが足りない」とはっきりわかる部分に分かれてきます。

目安として、総務省の家計調査では、65歳以上の単身無職世帯の1か月あたりの支出は、およそ15万円前後とされています。現役世代を含めた単身世帯全体では、月16万〜17万円ほどです。もちろん、住む場所や暮らし方で変わりますが、まずはこの数字を土台に、自分の場合の家賃、食費、水道光熱費、保険料、医療費を書き出してみてください。

支出が見えたら、次は収入です。自分の年金の見込み額、働いて得られる収入、財産分与や年金分割で入ってくるお金。これらを並べて、毎月いくら足りないのかを把握します。ここが、すべての準備の出発点になります。生活費の具体的な内訳や、賃貸か持ち家かで変わる金額については、「熟年離婚後の生活費は毎月いくら必要?おひとりさま女性のリアルな家計簿」で詳しく解説しています。

手順② 夫婦の財産をリストアップする

次にやるのは、夫婦にどれだけの財産があるかを洗い出すことです。これを「財産分与の準備」と言います。

離婚のとき、結婚してから夫婦で築いてきた財産は、原則として半分ずつ分け合います。ここで大事なのは、たとえ専業主婦で自分名義の財産がなくても、堂々と半分を受け取る権利がある、ということです。家庭を守り、夫が働けるように支えてきたことが、財産づくりへの貢献と認められるからです。名義が夫のものであっても関係ありません。

対象になるのは、預貯金、持ち家、自動車、株などの有価証券、生命保険の解約返戻金、そして退職金です。特に熟年離婚では、退職金や持ち家といった大きな財産が含まれることが多く、金額も大きくなりがちです。

だからこそ、離婚を切り出す前に、どこにどんな財産があるのかを静かに確認しておくことが大切です。通帳、保険証券、不動産の書類などに、どんなものがあるか目を通しておく。これは財産を勝手に持ち出すという話ではありません。あくまで「何があるかを把握しておく」という、正当で当たり前の準備です。いざ話し合いになったとき、この把握があるかないかで、受け取れる金額が大きく変わってきます。財産分与の対象・対象外の線引きや、損しないための交渉のポイントは、「熟年離婚の財産分与『妻の取り分』は?損しないための交渉と相場」で詳しく解説しています。

手順③ 年金事務所で「情報通知書」を取り寄せる

3つめは、年金です。熟年離婚では、婚姻期間中の厚生年金の記録を夫婦で分け合う「年金分割」という制度が使えます。長年専業主婦だった方にとっては、老後の生活を支える大切な制度です。

ここで、正直にお伝えしておきたいことがあります。年金分割について「夫の年金の半分がもらえる」と思っている方が少なくありません。でも、これは誤解です。分割の対象になるのは厚生年金の記録のうち婚姻期間に対応する部分だけで、しかも「年金額そのもの」ではなく、計算のもとになる記録を分ける仕組みです。その結果、実際に増える金額は、一般的な家庭で月に数万円程度にとどまることが多いのです。

ある調査では、年金分割を受けた人の平均的な年金月額は約8万8千円ほど。単身高齢者の平均的な支出と比べると、それでも毎月6万円前後が足りない計算になります。厳しい数字ですが、これが現実です。だからこそ、幻想ではなく正確な金額を、早い段階で知っておくことが何より大切なのです。

自分の場合はいくらになるのか。それを教えてくれるのが、年金事務所で取り寄せられる「年金分割のための情報通知書」です。離婚の前でも請求できます。この一枚が、あなたの老後設計の土台になります。年金分割で実際にいくら増えるのか、モデルケースや不足を埋める方法については、「熟年離婚で年金分割はいくらもらえる?妻が老後破産を防ぐ資金計画」で詳しく解説しています。

見落としがちな「お金の落とし穴」

3つの手順に加えて、多くの方が見落としてしまう大事なポイントがあります。それが、健康保険と年金の切り替えです。

これまで夫の扶養に入っていた方は、国民年金の「第3号被保険者」として、自分では保険料を払わずに済んでいました。ところが離婚すると、この扶養から外れます。すると、自分で国民健康保険に加入し、国民年金も「第1号被保険者」に切り替えて、保険料を自分で納めることになります。この手続きは、原則として離婚後14日以内に、お住まいの市区町村の窓口で行う必要があります。

ここを忘れてしまうと、その期間が年金の「未納」扱いになり、将来受け取る年金が減ってしまうおそれがあります。うっかりしやすいところなので、離婚後にやるべきことの筆頭に入れておいてください。

もし保険料の負担が重くて払えそうにないときも、あきらめないでください。所得が一定以下であれば、保険料の免除や納付猶予を受けられる制度があります。これも市区町村の窓口で相談できます。

一人で抱えないでください。頼れる相談先があります

ここまで読んで、「やっぱり大変そう」と感じたかもしれません。でも、全部を一人で背負う必要はありません。頼れる窓口が、ちゃんと用意されています。

まず、お金や法律のことで迷ったら「法テラス」。国が設けた法的トラブルの総合案内所で、匿名でも問い合わせができます。収入や資産が一定以下の方なら、無料の法律相談や、弁護士費用の立て替えも受けられます。「弁護士なんて敷居が高い」と感じる方こそ、最初の入り口として使ってほしい場所です。

年金分割の手続きや、自分の受け取れる金額を知りたいときは「年金事務所」。先ほどの情報通知書も、ここで取り寄せます。

そして、健康保険や年金の切り替え、保険料の減免、生活費の支援については、お住まいの「市区町村の役所」が窓口です。

お金の全体設計に不安があるなら、ファイナンシャルプランナーのような専門家に、自分のケースで試算してもらうのも一つの方法です。数字がはっきりすると、漠然とした不安が「やるべきこと」に変わっていきます。

まとめ 準備は、あなたを守る力になります

熟年離婚で後悔しないために、まずやるべき3つの手順を振り返ります。

一つめは、離婚後の生活費を書き出して見える化すること。二つめは、夫婦の財産をリストアップしておくこと。三つめは、年金事務所で情報通知書を取り寄せ、自分の年金分割額を正確に知ること。この3つに、健康保険と年金の切り替えという落とし穴への備えを加えれば、準備の土台は固まります。

勢いや感情だけで動くのではなく、数字と事実を一つずつ確かめていく。その積み重ねが、離婚後のあなたの暮らしを守る力になります。長年、家庭を支えてこられたあなたには、これからの人生を穏やかに生きる権利があります。

このシリーズでは、今回ふれた年金分割、財産分与、離婚後の生活費、住まいの問題などを、これから一つずつ詳しく掘り下げていきます。気になるテーマから読み進めて、あなたの「地図」を少しずつ埋めていってください。

シリーズ「熟年離婚とお金」目次

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