「保険はとにかく入っておけば安心」
かつての私は、本気でそう思っていました。
生命保険、医療保険、がん保険。解約返戻金のあるタイプも、掛け捨てのタイプも、気づけば手当たり次第に加入していました。
18年間、工場を経営していました。従業員を抱え、取引先との関係もある。「もしものときに家族や会社に迷惑をかけられへん」という責任感が、保険選びの判断基準になっていました。
でも今振り返ると、あれは判断ではありませんでした。ただの無知でした。そもそも保険は本当に必要なのか、という話はこちらの記事でも詳しく書きました。
経営者時代、私はなぜ無駄な保険だらけだったのか
保険会社の担当者に勧められるまま、次々と契約を重ねていきました。保障内容を細かく比較したことは、正直ほとんどありません。
「この保障もつけておいたほうが安心ですよ」
そう言われれば、その通りやなと思っていました。保険料がいくらになっているか、月単位でしっかり把握していたわけでもありません。経営が順調なうちは、それでも気にならなかったのです。
今なら分かります。当時の私は、保険を「リスクに応じて必要な保障を選ぶもの」ではなく、「入れば入るほど安心が増えるもの」だと思い込んでいました。
解約返戻金のあるタイプは「貯蓄にもなる」という言葉に惹かれて契約し、掛け捨てタイプは「保障が手厚いから」という理由で別に契約する。同じようなリスクに、二重・三重に備えていたことにも気づいていませんでした。
無知は、時にお金を溶かします。当時の私の保険料は、今思えばかなりの金額になっていました。
破産後、入り直した保険も実は無駄が多かった
自己破産で、それまでの保険はすべて手放すことになりました。ゼロからの出直しです。
普通なら、ここで一度立ち止まって保険の必要性をじっくり考えるはずです。でも当時の私は、そうしませんでした。
生活を立て直す中で、また保険に入り直しました。「もしものときに備えなければ」という気持ちは、経営者時代から変わっていなかったのです。
知識をつけないまま入り直した保険は、結局また同じ失敗を繰り返す形になっていました。破産という大きな出来事を経験しても、保険との向き合い方そのものは変わっていなかったということです。
転機になったのは、FP相談でした。
自分では「もう最低限にしている」と思っていた保険を、専門家の目で見てもらったのです。結果は正直、ショックでした。
「この保障は重複していますね」
「これは今の状況だと、正直必要ないと思います」
指摘される一つひとつに、思い当たる節がありました。「まだ経営者時代の癖、抜けてへんかったんか」。そう痛感した瞬間でした。
そこから、いらないものはすべて解約しました。残したのは、本当に必要だと納得できたものだけです。
結果、保険料は月3万8千円から1万3千円まで下がりました。差額は月2万5千円、年間にすると30万円になります。見直しの詳しい経緯はこちらの記事で詳しく解説しています。
このお金を保険に払い続けていたら、と考えるとぞっとします。今はこの差額分を、そのままNISAの積立に回しています。
保険を減らしたことで不安が増えたかというと、そうではありませんでした。むしろ「何にいくら備えているか」が明確になったことで、以前より安心感は増しています。
生命保険|何を基準に選ぶべきか
保険を整理する中で、一番悩んだのが生命保険でした。
解約返戻金のあるタイプと、掛け捨てタイプ。この違いを、恥ずかしながら経営者時代の私はきちんと理解していませんでした。
解約返戻金型と掛け捨て型の違い
解約返戻金型は、保険料の一部が積み立てられ、途中で解約しても一定のお金が戻ってきます。「貯蓄性がある」と言われる理由です。ただし、その分毎月の保険料は掛け捨て型より高くなります。
掛け捨て型は、保障だけに保険料を使うシンプルな仕組みです。途中で解約してもお金は戻りませんが、同じ保障額なら保険料は安く抑えられます。
私が今、残しているのは掛け捨てタイプの、必要最低限の保障だけです。理由はシンプルで、「貯蓄」と「保障」は分けて考えるべきやと気づいたからです。
貯蓄性のある保険は、一見お得に見えます。でも中身をよく見ると、保険会社の手数料が引かれた上での運用になっていることが多い。それなら、貯蓄はNISAで、保障は掛け捨てで、と役割を分けたほうが、結果的に効率がいいのです。
保障額をどう決めるか
私が基準にしたのは「今、自分に何かあったとき、家族が本当に困る金額はいくらか」という一点でした。
子育てが終わっているか、住宅ローンが残っているか、配偶者に収入があるか。これによって必要な保障額は大きく変わります。私の場合、子どもはまだ専門学校生で、卒業まであと1年半。学費という「まだ終わっていない責任」が残っています。だからこそ、必要な保障額をゼロにするのではなく、「あと1年半分、子どもの学費をカバーできる金額」という具体的な基準で考えました。
経営者時代の私は、この計算を一度もしたことがありませんでした。「何となく不安だから」という理由で、必要以上の保障をつけ続けていたのです。
生命保険は、入るか入らないかではありません。「今の自分に、いくらの保障が本当に必要か」を数字で考えることが、一番の基準になります。
医療保険|「最低限」の基準はどこか
保険を見直す中で、私が一番驚いたのは「高額療養費制度」の存在でした。
正直に言うと、この制度をきちんと理解したのは、破産後にFP相談を受けてからです。それまでは「入院したら医療費がとんでもない金額になる」と、漠然とした不安だけを抱えていました。
高額療養費制度の基本
高額療養費制度とは、1か月の医療費の自己負担額に上限を設ける公的な仕組みです。所得によって上限額は変わりますが、たとえば年収約370〜770万円の人なら、月100万円の医療費がかかっても、自己負担は月8万7千円程度で頭打ちになります。
しかも、直近12か月の間に3回以上この上限に達した場合、4回目からはさらに負担が軽くなる「多数回該当」という仕組みもあります。長期入院や通院を続ける方への配慮です。
これを知ったとき、正直「知らんまま高い医療保険に入り続けてたら、えらい損してたな」と思いました。
2026年8月からの制度改定について
ここで一つ、触れておきたいことがあります。
高額療養費制度は、2025年に自己負担限度額の引き上げが計画されましたが、患者団体からの反対もあり一度は全面凍結されました。その後、専門委員会での議論を経て、2026年8月から改めて制度が見直されることになっています。
引き上げ幅は、所得区分にもよりますが、月数千円程度の増加が中心です。一方で、これまでなかった「年間上限」が新たに設けられ、多数回該当の基準はこれまで通り据え置かれます。
「制度が改悪される」という情報だけを見て不安になる必要はありません。長期療養が必要な方への支えは、むしろ今回の改定でも維持されています。
医療保険の「最低限」をどこに置くか
高額療養費制度でカバーされるのは、あくまで保険適用の医療費だけです。次のようなものは対象外になります。
差額ベッド代、入院中の食事代、先進医療にかかる技術料、通院のための交通費。これらは全額自己負担です。
私が医療保険を「最低限」にした基準は、この対象外部分に、貯蓄でどこまで耐えられるかという一点でした。
生活費の半年分程度の貯蓄があれば、差額ベッド代や食事代くらいは十分にまかなえます。だからこそ、必要以上の保障はいらないと判断しました。逆に、貯蓄に余裕がない方や、自営業で傷病手当金がない方は、医療保険の優先度をもう少し上げて考えるべきだと思います。
「保険に入っているから安心」ではなく、「公的保険でどこまでカバーされて、自分の貯蓄でどこまで耐えられるか」を数字で把握する。これが、私がたどり着いた医療保険の最低限の基準です。
がん保険|持病がある人が直面する現実
保険を見直す中で、唯一そのまま残しているのが、がん保険です。
理由は単純です。今から新しく入ろうとしても、入れないからです。
私は大腸の病気を経験しています。この病気が発覚する前に加入していたがん保険を、そのまま継続しています。
保険というのは、入るときに健康状態を正直に申告する「告知義務」があります。持病があると、その内容によっては新規加入を断られたり、保障内容に制限がついたりすることがあります。健康なうちに入っておいた保険が、病気を経験した後になって初めて「入っておいてよかった」と思える。これが保険の本質やと、身をもって知りました。
もし当時、「がん保険なんて、まだ先の話や」と思って先延ばしにしていたら。今ごろ、新しい保険に入ることすらできていなかったかもしれません。
これは正直、運が良かった部分もあります。でも運任せにせず、健康なうちに最低限の備えをしておくことの大切さを、これほど実感したことはありません。
生命保険や医療保険は、状況に応じて見直し、必要のないものは解約してきました。でも、がん保険だけは別です。一度手放してしまえば、同じ条件ではもう二度と入れません。
持病がある方、あるいは健康診断で気になる数値が出ている方に伝えたいのは、「まだ大丈夫」と先延ばしにする前に、一度検討してみてほしいということです。若く健康なうちに入っておくことが、結果的に一番の安心につながります。
経営者経験者だからこそ言える、保険選びの本質
18年間、経営者として保険に入り続け、破産を経験し、また入り直し、そしてFP相談で整理する。この一連の流れを経て、ようやく気づいたことがあります。
保険は「安心を買うもの」ではなく、「リスクを数字で判断するもの」やということです。
経営者時代の私は、リスクを数字で見ていませんでした。「何かあったら怖い」という感情だけで、次々と保険を契約していました。感情で判断すると、際限がありません。不安を煽られれば煽られるほど、保障を積み増したくなるからです。
破産後、入り直した保険もまた無駄が多かったのは、この感情の癖が抜けていなかったからです。知識がないまま「もしものために」と考えると、結局また同じ失敗を繰り返します。
FP相談で教わったのは、シンプルなことでした。
「今の自分に、いくらのリスクがあって、それは公的保険や貯蓄でどこまでカバーできるのか。その上で、足りない部分だけを保険で埋める」
この順番を守るだけで、保険は驚くほどシンプルになります。生命保険は「家族が本当に困る金額」、医療保険は「公的保険と貯蓄でカバーできない部分」、がん保険は「入れるうちに入っておく」。それぞれに、感情ではなく判断基準があります。
まとめ|生命保険・医療保険・がん保険、60代の選び方
経営者時代、無知なまま保険に入り続けていた私が、今たどり着いた結論をまとめます。
生命保険は、貯蓄性と保障を分けて考え、必要な保障額を具体的な数字で計算する。
医療保険は、高額療養費制度でカバーされる範囲を理解した上で、貯蓄で耐えられない部分だけを最低限で備える。
がん保険は、入れるうちに入っておく。持病があると新規加入は難しくなります。
結果として、私の保険料は月3万8千円から1万3千円まで下がりました。この差額を、今はNISAの積立に回しています。
保険を減らすことは、無防備になることではありません。何にいくら備えているかを自分で把握することこそが、本当の安心につながります。
もし「自分の保険が今のままでいいのか分からない」と感じたら、一人で悩まず、FPに相談してみることをおすすめします。私自身、専門家の目が入ったことで、初めて自分の思い込みに気づけました。相談先で迷ったらこちらで比較しています。

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