夫の退職金は半分もらえる?熟年離婚で妻が知っておくべき財産分与の罠

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「熟年離婚なら、夫の退職金を半分もらえるらしい」。そう聞いて、少し心強く思っている方もいるかもしれません。長年連れ添った証として、退職金の半分が手に入るなら、離婚後の生活も少しは楽になる、と。

その期待、決して間違いではありません。でも、正確ではないのです。退職金は、半分もらえるケースと、もらえない(あるいは大きく減る)ケースに分かれます。そして、その分かれ目を知らないまま話し合いに臨むと、本来受け取れたはずのお金を取りこぼしてしまう。ここには、いくつもの「罠」が潜んでいます。

前回の財産分与の記事で、退職金も分割の対象になるとお伝えしました。今回はその退職金だけを取り出して、妻が損をしないために知っておくべき落とし穴を、一つずつ見ていきます。金額が大きいテーマだからこそ、しっかり押さえておきましょう。

退職金は財産分与の対象。ただし「全額の半分」ではありません

まず基本から確認します。退職金は「給料の後払い」という性質を持つと考えられています。長年働けたのは、家庭を支えた配偶者の協力があってこそ。だから退職金も、夫婦で築いた共有財産として、財産分与の対象になります。

ただし、ここが最初の勘違いポイントです。分けられるのは退職金の全額ではなく、結婚していた期間に対応する部分だけです。独身時代に働いた分や、離婚後に働く分は含まれません。

一般的な計算式は、退職金額に「婚姻期間÷勤続年数」をかけ、さらに2分の1をかけたものです。たとえば退職金が2,000万円、勤続35年のうち婚姻期間が25年なら、2,000万円×(25÷35)×2分の1で、およそ714万円が妻の取り分の目安になります。全額の半分(1,000万円)ではない、という点を押さえておいてください。

罠① まだ受け取っていない退職金は、もらえないことがある

最大の分かれ目がここです。夫がまだ退職金を受け取っていない場合、その将来の退職金が財産分与の対象になるかどうかは、「支払いがほぼ確実かどうか」で判断されます。

対象になりやすいのは、会社に退職金制度がきちんとあり、経営が安定していて、定年退職までおおむね10年以内、というケースです。逆に、定年まで10年以上ある、会社の経営に不安がある、夫が転職を繰り返している、といった場合は、「本当に支払われるかわからない」として、対象から外れることがあります。

熟年離婚の多くは夫の定年が近い時期に起こるので、対象になるケースが多いのですが、絶対ではありません。まずは夫の勤務先に退職金制度があるか、就業規則や退職金規定を確認することが出発点になります。

罠② 「退職後に払う」ではなく「離婚時に先払い」が原則

これは意外と見落とされがちで、しかも夫側にとっても妻側にとっても重要な点です。

将来の退職金が財産分与の対象になった場合でも、「夫が退職金を受け取ったときに、その中から妻に払う」という形にはなりません。原則は、離婚が成立する時点で清算する、つまり夫が今、手元の資金から支払う必要があるのです。

ここに現実的な難しさがあります。まだ受け取っていない退職金の分を、今まとまった現金で用意するのは、夫にとって簡単ではありません。その結果、「払いたくても払えない」という事態になり、話し合いがこじれることがあります。分割払いにする方法もありますが、それには相手の合意が必要です。将来の退職金を当てにするときは、この「先払い原則」があることを頭に入れておいてください。

罠③ すでに使ってしまった退職金は、取り戻せない

3つめの罠は、受け取り済みの退職金についてです。

夫がすでに退職金を受け取っている場合、それは財産分与の対象になります。ところが、受け取った退職金がもう手元に残っていない、つまり使ってしまっていると、分けようがないため対象から外れてしまうのです。

やっかいなのは、退職金を普段使いの口座に入れたまま時間が経つと、残高のうちどこまでが退職金分なのか、判別がつかなくなることです。そうなると、退職金として主張しづらくなってしまいます。もし退職金の受け取りが近い、あるいはすでに受け取っているなら、その入金がわかる通帳や取引履歴を確認し、記録として残しておくことが大切です。「いつ、いくら入ったか」を示せるかどうかが、後の交渉を左右します。

罠④ 「隠れた退職金」を見落とさない

4つめは、退職金という名前ではないけれど、実質的に退職金と同じ役割を持つお金の存在です。これを見落とすと、大きな取りこぼしになります。

具体的には、企業型の確定拠出年金(企業型DC)、iDeCo(個人型確定拠出年金)、確定給付企業年金(DB)、個人年金保険などです。これらはいずれも、婚姻期間中に積み立てられた部分が、財産分与の対象になりうるものです。さらに、NISAで運用している資産も対象になります。「うちの夫に退職金はない」と言われても、こうした制度で老後資金を積み立てているケースは少なくありません。何があるか、確認しておく価値は十分にあります。

ただし、ここも注意が必要です。確定拠出年金やiDeCoは、原則60歳になるまで引き出せません。しかも運用中で金額が変動するため、正確な評価が難しいのが実情です。そのため、これらは別の預貯金など手元の資産で埋め合わせる「現金清算」や、生活が苦しい側への「扶養的財産分与」といった形で調整されることが一般的です。制度が複雑なので、ここは特に専門家の力を借りたいところです。

なお、私自身もNISAやiDeCoで老後資金を積み立てていますが、こうした制度が離婚の際にどう扱われるかは、正直、当事者になって初めて知ることが多いものです。だからこそ、早めに全体像をつかんでおく意味があります。

損しないために、退職金は特に専門家へ

ここまで4つの罠を見てきて、「思っていたより複雑だ」と感じられたのではないでしょうか。その感覚は、正しいものです。

退職金の財産分与は、将来分をどう現在の価値に直すか(中間利息の計算)、確定拠出年金をどう評価するかなど、専門的な判断が必要な場面が多く、個人だけで適正な金額を導き出すのは容易ではありません。相手の言い値をそのまま受け入れて、大きく損をしてしまう方も少なくないのです。

だからこそ、退職金が絡む離婚では、早い段階で専門家に相談することを強くおすすめします。まずは夫の勤務先の退職金規定を確認し、そのうえで弁護士やファイナンシャルプランナーに、自分のケースでいくらが対象になりそうかを試算してもらう。費用が心配なら、収入が一定以下の方は法テラスで無料の法律相談を受けられます。この記事はあくまで全体像をつかむための地図であって、最終的な金額や可否の判断は、必ず専門家に確認してください。

まとめ 「半分もらえる」は条件つき。備えた人が守られます

夫の退職金を半分もらえる、というのは条件つきの話です。分けられるのは婚姻期間に対応する部分だけ。まだ受け取っていない退職金は支払いが確実なときだけ対象になり、しかも離婚時の先払いが原則です。すでに使ってしまった退職金は取り戻せず、企業年金やiDeCoといった「隠れた退職金」は見落とされがちです。

これらの罠を知り、退職金規定を確認し、記録を残し、専門家の力を借りて交渉に臨む。その準備をした人が、正当な取り分をきちんと守れます。金額が大きいぶん、ひと手間かける価値は十分にあります。

ここまで、年金分割・財産分与・退職金と、離婚で「分けるお金」を見てきました。次回からは視点を変えて、離婚後に実際どれだけのお金で暮らしていけるのか、「離婚後の生活費」を具体的に見ていきます。もらうお金の話から、使うお金の話へ。引き続き、一緒に確認していきましょう。

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